なぜヒヤリハットの記録管理を内製するのか
安全の取り組みが形だけになるのは、現場の意識が低いからではありません。集めた報告を活かす手立てが、集める手立てほど整っていないからです。現場では次のような困りごとが起きがちです。
- 報告用紙は集まるが、束ねて眺める場所がなく、同じ場所で繰り返し起きていることに気づけない
- その場で口頭で共有して終わり、記録として残らないまま担当者が異動する
- 対策は会議で決まったのに、実際に手が付いたかを追う人がいない
- 拠点や班ごとに用紙の様式が違い、全社で並べて見ることができない
この作業は「起きたことを同じ形で控え、同じ場所・同じ作業で何度起きたかを数える」という性質が強く、機械的な集計と相性の良い領域です。安全衛生の管理システムやパッケージにも同じ機能はありますが、全社の職場体系に合わせた初期設定と、既存の様式を移し替える作業が前提のものが多く、一つの拠点が自分の現場の傾向を見たいだけの用途には重すぎることがあります。全社の仕組みが整うのを待つあいだ、現場は結局、紙とその場の口頭共有に戻ります。自分の現場で実際に起きることだけへ絞った身軽な仕組みを作れるのが内製の強みです。製造の現場で生成AIを使って改善を回す進め方は製造業の現場が5日で内製する業務ツールの作り方で、建設・工事の現場については建設業でClaude Codeを使う内製の進め方で整理しています。
作るツールの全体像
今回作るのは、現場から上がってくる報告を一か所に集め、繰り返しと放置を機械的に浮かび上がらせる小さなツールです。流れは次のとおりです。
- 報告の登録:発生日・発生場所・出来事の内容・区分を控え、一件として記録する
- 繰り返しの集計:同じ場所・同じ作業で何件起きているかを数え、多い順に並べる
- 対策の見張り:対策が決まったのに実施の記録が付いていないものを抜き出す
- 埋もれの検知:担当者が付いていない報告や、上がったまま何も動いていない報告を洗い出す
- 傾向の記録:月ごとの件数と区分の内訳を書き足し、取り組みの前後で変化したかを振り返れるようにする
大切なのは、最初から原因分析の分類体系まで作り込まないことです。「不安全行動か不安全状態か」「四大災害のどれに当たるか」といった分類を最初に整えようとすると、分類の議論だけで何回も会議を重ねることになり、肝心の台帳が動きません。まずは発生日・発生場所・出来事の内容・区分の四つだけで動かし、区分も「ヒヤリハット」「けがなし」「けがあり」程度の粗さで構いません。それだけでも、突出している場所と工程はほとんど見つけられます。設備そのものの不具合が背景にある場合は、設備・機器の点検記録を管理するツールの作り方で作った台帳と設備名の書き方をそろえておくと、点検の履歴と突き合わせて見られるようになります。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- いま使っている報告用紙(1枚で十分):現場で配っている様式をそのまま使えます。どの欄に何を書いてもらっているかが分かれば、Claude Code が台帳の形をつかめます。
- 直近の報告(数件分で十分):箱に溜まっている用紙から数枚で構いません。実際に書かれている言葉づかいが分かることが大切です。
ヒヤリハットの報告には、誰がどの作業でどう危なかったかという、個人が特定できる情報が含まれます。試す段階でも社内の情報の取り扱いルールに沿い、社外に出さない環境で作業してください。業務でAIを安全に使う考え方は業務AI利用時の情報漏えい対策で解説しています。あわせて、報告した人が不利益を受けない扱いにすることも決めておいてください。台帳に個人名を残すのか、作業や工程だけを残すのかを最初に決めておかないと、報告そのものが上がってこなくなり、仕組みが死にます。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Code へ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:いまの報告用紙をそのまま渡す。「現場から上がってくるヒヤリハットを、あとから傾向を見られる形で残したい」と目的を伝え、手元の用紙を渡します。「発生日・発生場所・出来事の内容・区分を控えている」と、いまの運用の中身をそのまま言葉で伝えれば、Claude Code が台帳の土台を作ってくれます。まずは箱にある数件を入れて、いつもの見え方で並ぶかを確かめます。
第二段階:繰り返しを数えさせる。台帳が整ったら、「同じ場所や同じ作業で何件起きているかを数えて、多い順に並べてほしい」と伝えます。ここが手作業では最も続かないところです。現場の書き方は「三番ライン」「3号ライン」「第3ライン」のように揺れるのが普通なので、実際の用紙にある表記をいくつか渡して「これらは同じ場所として数えてほしい」と伝え、意図どおりにまとまるかを確かめてください。数え方が固まると、感覚で「あのあたりが危ない」と言っていたことが、件数という形で共有できるようになります。
第三段階:対策の放置を抜き出させる。「対策が決まったのに、実施したという記録が付いていないものを抜き出してほしい」と伝えます。あわせて「担当者が付いていない報告」「上がってから一定の日数が過ぎても何も動いていない報告」も抜き出すよう頼めば、埋もれた報告が自分から出てくる形になります。誰がいつまでに何をするかを個人の予定として追いたい場合は、タスク管理ツールの作り方で作った一覧と担当者名の書き方をそろえておくと、対策が日々のやることの中に混ざって進みます。
第四段階:月ごとの傾向を残す。「月ごとの件数と区分の内訳を書き足せるようにして、推移を振り返れるようにしてほしい」と伝えれば、台帳が使うたびに積み上がっていきます。安全大会や安全衛生委員会の資料は、この推移をそのまま出せば済むようになります。お客様からの苦情として上がってくる不具合と地続きで見たい場合は、クレーム・苦情対応の記録管理ツールの作り方で作った台帳と区分の書き方を合わせておくと、社内で気づいた危険と社外から指摘された不具合を並べて振り返れます。完成したら操作の流れをメモに残しておくと、担当が交代しても同じ形で回せます。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
分類体系から作り始めること。「原因の分類をきちんと決めてから台帳を作りたい」と考えると、分類の議論だけで数か月が過ぎ、そのあいだ報告は箱に溜まり続けます。まずは粗い区分で全件を台帳に載せてください。件数が並んで初めて「この分け方では足りない」という具体的な話ができるようになります。分類を細かくする作業は、台帳が実務で使われるようになってからで間に合います。
ツールの判定を届出の要否と取り違えること。Claude Code は渡した記録を集計するのは得意ですが、その出来事が労働災害として届け出るべきものか、どの書類をいつまでに出す必要があるかは判断できません。休業の日数の数え方、下請けや派遣の方が被災した場合の扱い、記録として残しておくべき期間など、法令に基づく判断が要る場面は少なくありません。報告の要否や保存期間は必ず一次情報を確認し、所轄の労働基準監督署や産業医、社会保険労務士など管轄の窓口に相談してください。ツールに任せるのは「記録と繰り返しの見える化まで」で、届け出るかどうかの判断と手続きは人が持つ、という線を最初に引いておくのが安全です。
台帳は作ったのに報告が減ること。記録が残る形にした途端、現場からの報告が減ることがあります。書いたことが人事評価や叱責につながると受け取られると、危ないことほど上がってこなくなり、台帳は「安全な現場」という誤った姿を映す鏡になります。報告した人を責めない扱いにすること、上がった報告に対して何が変わったかを現場へ返すことを、仕組みとセットで決めてください。「朝礼のあとにその場で一行足す」「月に一度、抜き出された場所だけ現場で確認する」といった、触る場面を一つずつ決めておくのも効果的です。社内で作ったツールを長く使い続ける工夫は内製ツールの保守の進め方で解説しています。
まとめ:繰り返しの見える化はツールに、届出の判断は人に
本記事の要点を整理します。
- 安全の取り組みが形だけになる原因は現場の意識ではなく、集めた報告を束ねて眺める場所がないこと
- 作るのは「報告の登録→繰り返しの集計→対策の見張り→埋もれの検知→傾向の記録」の小さなツール
- 用意するのはClaude Code・いま使っている報告用紙・直近の報告の3つだけ
- 控える項目は発生日・発生場所・出来事の内容・区分の四つから始め、原因の分類体系までは作り込まない
- 記録と繰り返しの見える化はツールに任せ、届出の要否と手続きの判断は人と管轄の窓口が持つ
集計と見張りはツールに任せ、法令に基づく判断は人が持つ——この役割分担を押さえれば、安全の記録は「箱に溜めておくもの」から「次に手を打つ場所を教えてくれるもの」へ変わります。まずは箱にある数枚の用紙を、Claude Code に渡して台帳にするところから始めてみてください。配送や輸送の現場で同じ考え方を使う場合は物流・運送業でClaude Codeを使う内製の進め方もあわせてご覧ください。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もご確認ください。
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